笑う。
彼が笑っている。
屈託の無い笑み。そこには邪気も悪意も何も無い。
「どうかしたかい、ブラックブーメラン」
言葉をかけられて、アルフィミィははっと我に返った。いつの間にか自分の隣に、銀髪の、彼とどこか似ている青年が立っていた。
「ハーケン」
「あのグループに混ざりたいのかい?」
ハーケンとアルフィミィの目線の先には、賑やかに会話をしているアクセルとアシェン、零児、小牟がいた。
「いいえ。…少し、見とれておりましたの」
「へえ、アクセルにかい?」
「そうですの」
否定することなく、アルフィミィは笑顔で答える。しかし、その笑顔にハーケンは少し違和感を覚えた。
「ずっと一緒だったんだろう?今更…」
「今だから、ですのよ?私…、あんな風に笑うアクセルを、見たことがなかったような気がいたしますの」
そう言って、またアルフィミィは先ほどの笑顔を浮かべた。…少し憂いの色がある笑顔だ。
「…記憶が無くなる前は、随分と性格が違ったんだな?」
「…そう、そうですの」
次の目的地であるトレイデル・シュタットに向かう前、ヴィルキュアキントでアルフィミィは、完全でないまでも記憶を取り戻していた。しかし、記憶の戻らないアクセルには、アクセル自身のことを敢えて告げていない。
「言ってやったら、上手いことウェイクアップするんじゃないのかい?」
「それも考えたんですけれど、多分戻らないと思うんですの。…それに」
「それに?」
「…企業秘密にて、あしからず」
ふと続けそうになった言葉を、アルフィミィは表に出すのを止めた。口の前に一本指を立てて、笑みを作る。
「そうかい。…ま、行って来なよ。その笑顔、もっと近くで見なくていいのかい?」
「ところで、アルフィミィの記憶、戻ったんだろう?自分の事は聞いたのか?」
零児が話題を変えた。さっきまで随分と下らない話をしていたためか、アクセルは少し戸惑った。
「あ?ああ…。実は、あんまり聞いてないんだな、これが」
「なんでじゃ?あんなに記憶を取り戻したいと言っておいて」
小牟が当然の疑問を口にした。
「いや、こないだも言ったろ?ゆっくりでいいって。それに、なーんか思い出しちゃいけない気もしてきたんだよな」
アクセルが頭を掻く。
「ん?どういうことかの?」
「上手く言えないんだけどさ…。記憶が戻っても、おれはおれでいられるのかなって。アシェンがDTDで人格変わるのとはワケが違うからさ」
「ボク?おんなじじゃない?」
「…いちいちDTDを発動しなくていい」
勝手にDTDを発動させて陽気になったアシェンに零児が冷静に突っ込みを入れる。
「だが、よく聞く話ではあるな。記憶喪失から戻ったら、その間の記憶が消えることもあると」
「そうそう!…なんかさ、ちょっと怖いんだよな。記憶が戻っても、皆と一緒にこうしていられるのかが…さ」
珍しく弱気な発言をするアクセルに、零児が不思議そうな顔をした。
「そんなに不安なのか?…お前なら多分…」
「大丈夫ですの」
気配も無くひょっこりと零児の隣に現れたアルフィミィに、零児は驚いた顔をする。
「…驚かすな、アルフィミィ」
「ごめんあそばせ、ですの。でも、アクセルにお伝えしたいことがあって…」
「おれに?」
アクセルがきょとんとする。アルフィミィはいつもの笑顔で上背のあるアクセルを見上げる。
「もしもそんなことがあっても、私が…いえ、私達皆で、この間の出来事をお伝えいたしますの。あなたが嫌だって言っても、そういたしますのよ?だって…『仲間』ですもの、ね」
仲間、という言葉に、何故かアクセルは胸を締め付けられる気分を覚えた。かつて記憶を失う前にいたかもしれない、…失ったかもしれない人々。記憶が戻れば、また失うかもしれない『仲間』が、今目の前にいる。
「そうじゃの、ぬしが忘れていても、わしらが覚えておるから、安心して忘れても大丈夫じゃぞ?」
「忘れたら、また殴れば思い出すかもねー」
「だからアシェン、いちいちDTDを発動するな」
また零児がアシェンに突っ込みを入れる。漫才のような会話に、思わずアクセルも笑ってしまった。
「おいおい、覚えておくのが一番だろ?…でもま、心強いぜ、皆」
そんなやりとりを見て、アルフィミィはポツリと呟いた。
「…今のアクセルも、やっぱりいいですの」
「ん?なんか言ったか?」
隣にいた零児がアルフィミィの呟きに気が付いた。
「なんでもないですの」
アルフィミィはそれだけ言って、また笑顔のアクセルを見つめる。
(ここでも闘いの最中ではありますけれど…きっと彼の魂にとっては、休息の時に違いないですの…。無理矢理起こしては、可哀想ですもの…)
自分と同じく、戦争で敗れたアクセルは、多くの仲間を失っている。アクセルは戦争だからと割り切った態度を取っていたが、心の奥底に深い哀しみを抱いていたことを、アルフィミィは行動を共にし始めた時から感じ取っていた。
(だから、いつかその時が来るまでは、今のままでいいですのよ…?)
その時は、きっとそれほど遠くは無い。だからこそ、祈るような気持ちで、アルフィミィはアクセルの横顔を見つめる。
――記憶が戻った時、それはつまり、元来た『世界』を護るための闘いに身を投じる、ということなのだから。
コウタ加入前にミィちゃん記憶戻ってたよね…?ということで書いてみた。
自分がアインストだということだけ思い出したにしては、話す内容が…と思ったので、
ちゃんと思い出したけど、敢えてアクセルには何も言っていないんだと勝手に解釈。
そして
続き。
OG3の妄想という前提で見てください。